『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』
鑑賞日時:6/29(日)8:25~
鑑賞映画館:TOHOシネマズ新宿
他にも優先的に鑑賞したい作品がいくつかあるはずなのにも関わらず、綾野剛の演技の奇怪ぶりだけを目撃したいといった衝動的な思いつきで前日の夜遅くに急遽シネコンのオンライン予約チケットを購入したりする。
その奇怪ぶりというのは例えば『うさぎドロップ』(2011)で芦田愛菜の背後から又吉よろしく長髪姿で薄気味悪い視線を送るキョウイチだったり、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016)ではスーツ姿でいかにも胡散臭い雰囲気を漂わせて黒木華に接近する安室だったりと数え上げればキリがない。
綾野剛の演技のうまさの突出さというのはキョウイチだったり安室だったり、なんなら『カラオケ行こ!』(2024)のクールなヤクザの風貌とは対照的にXJAPANの『紅』を裏声で絶叫のごとく歌う狂児のように、綾野剛が綾野剛でなくなってしまうくらいのその役への没入と変貌ぶりを堪能させてくれる変幻自在性なのである。
小学校教諭の薮下誠一(綾野剛)は、氷室律子(柴咲コウ)から息子への体罰を告発される。実名報道されたあげく誹謗中傷から停職と社会的抹殺に追い込まれ、日常生活が崩壊してしまった誠一。思いもよらない民事訴訟という最悪の展開の中、ついに誠一は法廷で完全否認を主張する。
しかし実際作品を観て驚いたのは、氷室律子主観の供述で再現される児童への虐めの様子を描いた綾野剛の演技もさることながら、それ以上に法廷場面での柴咲コウ演ずる氷室律子の無表情で瞬きひとつしない強烈なサイコパスぶり。育ちの過程での人格の傷つきぶりは相当なものだったのではないだろうか。今回の柴咲コウの奇怪さは綾野剛の本領を凌駕するものであったと思う。
綾野剛と柴咲コウの稀にみる怪演合戦の緊張の中、小林薫の穏やかな老弁護士役の好演に癒される。事実にもとづいたルポルタージュを原作とする『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』は三池崇史監督社会派作品を楽しむ以上に、終始戦慄に襲われるホラー感を体験できる上質なエンタメ作品なのである。
